伊東友香

ひとりごと

  • - 2024.12.26 -

    伝導率

    亡くなった友人が
    近頃よく夢に出てくる

    思い出すことのないほど
    疎遠になっていたのに

    存在が濃くなって登場する

    肩までのしっかりした黒髪と
    濃い眉毛は健在で
    なによりいつも笑って
    私と誰かの傍で陽気にしてる

    学生時代と同じ他愛のない話は
    あの頃と同様に
    翌朝には忘れてる

    だけどしっかりと温度は残ってる
    平熱高めの彼女らしい
    伝導率が良さげなところに
    夢の中でも助けられてる

  • - 2024.12.26 -

    わたしも同じのを

    病み上がりの友人の顔に
    微かな疲れが見えた気がして
    急に不安になった

    同世代のタレントの訃報を
    聞いたせいもあるだろう

    好きな人が極端に少ない私は
    熱心にその人の
    健康と笑顔を願うけれど

    それさえも無情に奪われて行くのが
    世の常だと
    知りながら知らないふりをして生きてる

    辛いことは
    先送りに
    見たくないものには
    栓をして

    今、笑おう
    楽しもう

    結局、人生なんて
    その繰り返しでしか
    ないのだから

    忘れた頃に
    栓を開けたワインは
    熟成してまろやかになっているかもしれない

    目の前で
    もう一杯飲もうかな
    と、溢れる笑顔が言う

    その幸せを噛み締めて
    わたしも同じのを!

  • - 2024.12.26 -

    死んだ鳥

    機体に鳥がぶつかったとかで
    飛行機が遅れている

    疲れているから
    早く帰りたいのだけれど

    得体の知れない
    巨大物体が突如現れて
    ぶちあたり粉砕した
    鳥の方が余程気の毒だ

    私たちは
    平気で周りを薙ぎ倒して
    涼しい顔をして生きている
    優しい手で未来を引っこ抜く

    優先搭乗のアナウンスが響き渡り
    該当者以外は大人しく待機している

    障害者を
    子供を
    妊婦を
    大事にする善良な市民のふりをして

    死んだ鳥はもう忘れ去られた

  • - 2024.12.26 -

    十年前の冬の話

    末端冷え性の私は
    お風呂上がりでもすぐに冷えて
    ベッドで眠っている
    あなたの足の間に爪先を滑り込ませた

    ヒヤッとしたのか
    なんだよ、もう
    と、眠りながら怒っているあなたに
    なんて小さな男だろと、舌打ちした
    おいで、あたためてあげる
    と、挟み込んで欲しかったのに

    今では
    寝入り時の繊細な瞬間に
    急に冷たいものに侵入されたら怒るだろうと
    容易に想像が付くし
    甘い期待も嫌がらせもしないけれど

    寒いから
    あたためてよ
    そんな純真な依存

    ふてぶてしくも可愛らしい

    十年前の冬の話

  • - 2024.12.26 -

    せめて

    夕日を見たら
    あなたに会いたくなった

    マフラーを忘れてきたから
    首筋に口づけてくれたらいいのに

    会いたいときに
    会いたいと
    言えなくて

    せめて
    風邪を引かないでね
    と、LINEしようかな

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Photo ノザワヒロミチ