伊東友香

ひとりごと

  • - 2024.12.26 -

    死んだ鳥

    機体に鳥がぶつかったとかで
    飛行機が遅れている

    疲れているから
    早く帰りたいのだけれど

    得体の知れない
    巨大物体が突如現れて
    ぶちあたり粉砕した
    鳥の方が余程気の毒だ

    私たちは
    平気で周りを薙ぎ倒して
    涼しい顔をして生きている
    優しい手で未来を引っこ抜く

    優先搭乗のアナウンスが響き渡り
    該当者以外は大人しく待機している

    障害者を
    子供を
    妊婦を
    大事にする善良な市民のふりをして

    死んだ鳥はもう忘れ去られた

  • - 2024.12.26 -

    十年前の冬の話

    末端冷え性の私は
    お風呂上がりでもすぐに冷えて
    ベッドで眠っている
    あなたの足の間に爪先を滑り込ませた

    ヒヤッとしたのか
    なんだよ、もう
    と、眠りながら怒っているあなたに
    なんて小さな男だろと、舌打ちした
    おいで、あたためてあげる
    と、挟み込んで欲しかったのに

    今では
    寝入り時の繊細な瞬間に
    急に冷たいものに侵入されたら怒るだろうと
    容易に想像が付くし
    甘い期待も嫌がらせもしないけれど

    寒いから
    あたためてよ
    そんな純真な依存

    ふてぶてしくも可愛らしい

    十年前の冬の話

  • - 2024.12.26 -

    せめて

    夕日を見たら
    あなたに会いたくなった

    マフラーを忘れてきたから
    首筋に口づけてくれたらいいのに

    会いたいときに
    会いたいと
    言えなくて

    せめて
    風邪を引かないでね
    と、LINEしようかな

  • - 2024.12.26 -

    愛おしくなる

    悲しいことがもう起きないといいな
    と、呟いたら

    悲しいことも愛おしくなるよ
    と、あなたは言う

    確かにあなたとの記憶なら
    なにからなにまで愛おしくなるかもしれない

    でもそれは
    触ることのできない肌と
    ささやくことのない唇と
    望むことの許されない未来が
    どうしようもなく
    横たわっているからでしょう

    届かないほど愛しいなら
    やっぱり悲しいかな

  • - 2024.11.22 -

    おやすみ

    ないものより
    あるものを
    数えて

    今日はもう眠ろう

Photo ノザワヒロミチ