伊東友香

ひとりごと

  • - 2025.12.14 -

    忘却

    優しいところが
    私に似てる
    と、母が言う

    死んでから好かれた兄は
    苦笑い

    忘却こそが
    等しく
    優しい

    思い出が生まれ変わる 

  • - 2025.12.14 -

    あなたはわたし

    私を気にいってる?
    と、人生が聞くのに
    もちろんだよと答えられない

    失ったものを懐かしんでうわの空
    手に入らないものを探して
    ポケットに手を突っ込んだり

    苦しみは去ったのに
    どうにか乗り越えたのに
    血のついたハンカチはまだ引き出しの中

    抱きしめられたなら
    名前を呼ばれたら
    黄昏に溶けていけそうで
    光を夢みて
    飽きては放り投げて

    私を気に入ってる?
    ええ、そうね。
    あなたはわたし

  • - 2025.12.14 -

    骨太な虹

    兄の死亡届記載事項証明書を取りに
    田舎の役所に行くと
    忘れているようで変わり映えしない
    道すがらに雨が降って来た

    委任状やらなんやらと用意して
    長い時間待ってやっと手にした死亡届には
    敗血症と書いてあった
    発症から死亡まで11日だった

    兄の苦しそうな最期が思い出され
    痛ましくて浅い息で役所を出ると
    さっきの雨は止んで太陽が差し込んでいた

    まっすぐ歩いて直角に曲がるのもダルくて
    適当に右に入り路地を歩く
    細い道で顔をあげると
    ビルとビルの間に骨太な虹が出ていた

    兄が笑っているような気がした

    証拠写真を撮ろうと
    いい角度を探していると
    虹が消えた

    「欲張るなよ」
    と、強面の声がする

    幻でもいい
    一瞬でもいい

    兄の家の近くに
    骨太な虹が出ていた

  • - 2025.12.14 -

    最期に

    ごめんね
    じゃなくて
    ありがとう
    と、ずっと言いたかった

  • - 2025.12.14 -

    私の中で

    会いたくてずっと会えなくて
    寂しかった

    この世から消えた人

    私の中でと信じてたけど
    いないじゃない

Photo ノザワヒロミチ