伊東友香

ひとりごと

  • - 2025.08.05 -

    葬儀

    会ったことのない人の
    葬儀に参列し
    もちろん涙は出ないのだが

    生前お会いできなかったことが
    残念で
    こうして最期にお会いできたことが
    ご縁なのかと
    不思議な気持ちになる

    子供のころ
    父の葬儀に参列している他人を見て
    白けた気持ちになったけれど
    死んでまでも
    生き人を守ろうとする気概が
    父にはあったのだ

    死んだ人たちが
    私たちを繋げて行くなら

    もう、なにも
    怖がらなくてもいいかもな

  • - 2025.08.05 -

    フラット

    上とか下とか
    有名とか無名とか
    良いとか悪いとか
    綺麗とか汚いとか

    誰かの都合で分裂されてる程度のことに
    ぶち当たって落ち込みそうになってた

    あぶない あぶない

    遠くの見えそうで見えない地平線くらい
    平らにならなきゃ

    曇りの日の海と空くらい
    交じり合わなきゃ

  • - 2025.08.05 -

    火の玉

    ワイルドライフの夏休み特集を見ていたら
    スイミーみたいなイワシの群れが
    イルカに海鳥にわしゃわしゃ食べられていた
    海鳥はイワシを咥え
    雛鳥のもとへ飛んで行く

    イワシ好きの息子は
    イルカと鳥に感謝しないとね
    と、呟いた
    人間がたくさん食べちゃうお礼

    イワシの命は繋がれる
    わたしの命は繋がれない

    息子にも
    バクテリアにも
    犬にも食われずに
    塵になる
    リンになる

    輪廻がもしあるなら
    小さな火の玉になって
    横を通るから
    気づいて

  • - 2025.08.05 -

    ジャガーの女

    母は昔、ジャガーの女と呼ばれていたらしい
    在日朝鮮人で成金の父が
    毎日のように赤いジャガーを走らせ
    母を迎えに行っていたからだ

    顔立ちがはっきりした
    ドラッグクイーンのように見えなくもない母は
    その時、どんな出立ちだったのか
    ミンクのコートでも羽織っていたのだろうか
    ピンヒールで巻き髪を風になびかせ
    父を鼻であしらっていたのだろうか

    そのままあしらっていればよかったものを
    ジャガーではなく父と事故に遭い
    母は苦労の人となる

    好き放題に生きて死んだ父の後始末を
    笑ってしているようで
    時折見せる狂気を
    私は盗み見て戦慄していた

    さすが、ジャガーの女
    負けてはいない

  • - 2025.08.05 -

    雲をつかむ

    入道雲の裏側に
    あなたがいそうで
    名前を呼ぶ

    笑顔も声も思い出せるのに
    感触が思い出せない

    雲をつかむような人だった

Photo ノザワヒロミチ