伊東友香

ひとりごと

  • - 2025.09.23 -

    クマ

    クマと共存したいと
    家に侵入したアリを殺しながら
    考えていた

    生き物が殺し合わないためには
    縄張りが必要で
    ただ、道が続いていれば
    クマもアリも歩くわけで
    人間の境界線を伝えたくても無理な話

    本来会わなくてもいい別種が
    出合頭驚いて攻撃し合うくらい
    この世は狭くて不自由で追い詰められているのか
    厳かに敬虔に立ち入る場所はないのか
    銃があれば撃ち合うエンディングしかないのか

    遠くに見えるか見えないかの
    山脈を眺めて
    クマも達者でやってな
    と、呟いていたいのに

  • - 2025.09.23 -

    羅臼

    綺麗なものを見るのは汚いものを見ることだと
    自由になるのは不自由になることだと
    神々しさに触れるのは罪なことだと
    自然を見るのは死を見ることだと知る
    羅臼の旅

    こみあがる涙は
    偽善ではなく摂理

    湖のほとりで
    小熊のような息子と
    手を合わす

    祈りのように
    虹がかかる

  • - 2025.09.23 -

    焚き火

    チリチリと燃える火
    燃え尽きたと思っても
    位置を変えて空気が通せば
    また燃える

    美しくて
    触れてみたくなる

    この世ではない
    蘇りの光

    愛して失った
    あなたを思い出す

  • - 2025.08.05 -

    アルピニスト

    登りたい山がたくさんあると言って
    登山中に亡くなったアルピニストがいる
    死んだらおしまいだと言って
    アル中のまま亡くなったアル中がいる

    やり続けることで
    応え続けることで
    逃げ続けることで
    探し続けることで

    塞がれてしまう空
    囚われてしまう指
    忍び寄ってくる地雷

    それでも最期のとき
    光はあった?

    そんなことが気になって
    今日も
    手探りに
    死者の横顔に触れる
    乾いた手が涙を吸うように

  • - 2025.08.05 -

    虚無

    愛そうとして
    寂しくなるなら
    一緒にいることに
    どんな意味があるんだろう

Photo ノザワヒロミチ