伊東友香

ひとりごと

  • - 2023.07.10 -

    霧の中で

    元気なの?と声を掛け
    死んでいたかと湖を見る

    死者は死んでからも
    変化する

    空を映す水面は
    泣いたり笑ったり
    光ったり闇にのみこまれたりと
    忙しい

    鳥居をくぐり
    神さまに会いにいく

    空も海も木も石も水も
    そしてあなたも
    神さまみたいなものだろう

    霧がたちこめる湖は凪いで
    あの世へと続いてる

    泣かないで

    私が幸せであるように
    あなたに祈ろう

    相変わらず図々しいなと
    苦笑いした姿が
    霧の中にあらわれて
    スーッとほどけて

    湖に帰っていく

  • - 2023.05.15 -

    蝶々のように

    6歳のとき
    空を見て綺麗だと思った
    46歳の今もそう思う

    6歳のとき
    世の中は嘘ばかりだと思った
    46歳の今もそう思う

    6歳のとき
    人生は疲れると思った
    46歳の今もそう思う

    いったいなにが変わったんだろう
    こころは驚くほどおんなじだ
    嫌なことも好きなことも
    嬉しいことも悲しいことも
    ひとつだって、変わってはいない

    空はそれでいいという
    生まれて死ねばいいという

    身体という繭に包まれて
    こころは悪戯に顔を出す

    蝶々のように
    とまれば遊ぶ

  • - 2023.05.15 -

    紫陽花

    今ごろになって
    空が晴れてきた
    雲の隙間に青空をのぞかせて
    わたしを誘う

    いっそのこと
    ずっと雨だったらよかったのに

    あなたに会いに行けないと
    諦めもついたのに

  • - 2023.05.15 -

    秒速で飛んでくる

    汚いも綺麗もない
    幸せも不幸もない
    正しいも間違いもない
    天国も地獄もない
    後も先もない

    あるのは
    わたしがここにいて
    繋がるあなたの小さな指先

    あなたがそこにいて
    ママと呼べば秒速で飛んでくるわたし

  • - 2023.05.15 -

    小石

    スニーカーの中の
    小石が気になって
    脱いで裏返してふってみて
    もう一度繰り返す

    それでも取れない小石が
    小指のあたりに移動した

    もぞもぞ指を動かしながら
    足の触れない位置へと追いやる

    努力も虚しく
    また土踏まずのあたりに戻ってきた小石に
    意識を取られる

    このまま諦めて家まで帰るか
    それとも脱いで正体を突き止めるのか

    はたして
    この小さななにかは
    本当に小石なのか

    見えてもいないのに
    そもそも追い出すことはできるのか

    小石への執着で
    今日のことを忘れそう

Photo ノザワヒロミチ