© 2015 itoh yuka
- 2023.08.07 -
私が父をずっと好きだと思い込んでいたのは
母がずっと父を愛していたからかもしれない
- 2023.08.07 -
手は離さず
怒りで早足になる母を
小走りで追いかけながら
「お父さんのこと好き」
と、火に油を注ぐ私
母はなんと答えたんだったか
「嫌い」
だったか
「わからない」
だったか
「好き」
では、なかったのは覚えている
母は私を
道連れのように人質のように
同志のように重荷のように
歩いていた
母に行く場所なんてないと
知っていたからこわくなかった
夜の道はただまっすぐ続いていて
遠くにいつものネオンが見えた
コンビニでなんか買って帰ろう
愛していても
好きじゃない
そんな家でも
- 2023.08.07 -
ちょっと有名だからという
下心がなかったかと聞かれれば
わからないけど
面白いという印象で食事に行ったりしていた知り合いからの
連絡が途絶える
この年ではじめて女性からされる
既読スルーにはわりと傷付き
まあ、忙しいにしろ
どうでも良い相手とのどうでもよい要件とみなされたのだから仕方がない
友達というのは
一方通行では成り立たない
男女問わず愛の行き交いがなければ
尊敬と共感と好奇心がなければ
成立しない
私が友達だと思ってた相手が
そうじゃないんだと
どんより空を見てたら
雷雨のあと短い虹が見えた
ばかばかしい気になった
- 2023.08.07 -
子供を学童まで送っての
かえりみち
あやしいと訝しんでいた空から
ざまあみろとでも言うように
ザーっと雨が降り出す
目の前の歩道橋の下のわずかなスペースに
自転車を突っ込んで雨宿り
駒沢通りを挟んで向こう側にも雨宿りしている男性がいる
それぞれがそれぞれの今日をはじめようとしてて
雨に打たれたり牛乳をこぼしたり妻に怒られりしている
スカートが濡れたりまた乾いたり面倒になったりしている
雨が小降りになり
向こうの男性より一足先に
自転車をこぎはじめる
小降りだった雨はすぐに止み
信号を過ぎた頃には
晴れ間から猛烈な日差しだ
激動の日をしなりと生き抜くのだ
所詮気まぐれな空
あくせくしてもはじまらない
空だけが知っている
- 2023.07.18 -
きれい、きれい、と言いながら
持っているのは、自分の花火
見つめるのは、自分の光
© 2015 itoh yuka