伊東友香

ひとりごと

  • - 2025.04.22 -

    新緑

    暑くも寒くもない季節を
    好きでも嫌いでもないあなたと歩く

    別々に死んでもいいけれど
    一緒に生きてもいいかもしれない

    たんぽぽの綿毛ほど
    軽いくらいがちょうどいい

    風が吹けば飛んで行く
    気やすさがちょうどいい

  • - 2025.04.22 -

    もう忘れるのも時間の問題だけれど
    生きることの餌になってくれた人がいる

    小学校のときに味方してくれた先生とか
    中学校のときに父が死んだ私を心配して電話番号を手渡してくれた先生とか
    高校生のときに口説いてきた先生とか

    公園で出会って遊んでくれた男とか
    お金がないときに服も食べ物も寝床も用意してくれた男とか
    優しい顔で人を騙す美魔女とか

    子連れの私に親切してくれたおばあちゃんとか
    道端の倒れた植木鉢を誰にも気付かれずに直せた自分とか
    亡くなった友達の遺品のリボンがいい香りで風になびいている朝とか

    私は花を食べて生きてきたから
    灰は大地に帰っていく

    恩返しにはならなくても
    誰かの餌になるんだ

  • - 2025.04.22 -

    ままならない世界

    諦めないでと
    アーティストが歌っても
    諦めるしかないこともある

    それを受け止める潔さが
    夢よりも尊いときがあると
    息子には上手く言えない

    愛を追いかけることよりも
    失うことで
    命を輝かせることよりも
    消えることで
    人は人に受け継がれる
    心は心に溶けはじまる

    今はすべてを許せてしまう
    あなたもわたしも
    ままならないこの世界も

    諦めながら愛してる

  • - 2025.04.22 -

    命日

    記憶の中のあなたは
    今も苦しそうだけれど

    死んでまで無理に笑わなくてもいい

    そのまま一緒に生き進む

    肩に寄り掛かる
    澄んだ重みと

  • - 2025.04.22 -

    切り花

    烏合の衆に飲み込まれたくないから
    多少尖っていないと
    その刃先に自らが傷付いて
    血を流しても
    研いでおかないと

    いざという時に
    美しい切り花を
    美しいまま持ち帰って
    床の間に飾るために

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Photo ノザワヒロミチ