伊東友香

ひとりごと

  • - 2023.07.10 -

    兄の夢

    昨夜、兄の夢を見た
    母に寄り添われて顔を真っ赤にして
    お酒を飲みながら下手な冗談を言って幸せそうだった

    兄は死ぬ瞬間まで母を愛した
    死んでからも痕跡を示し続けた
    愛されている実感がないから求め続けた
    存在を肯定して欲しくてあらゆる策を講じた

    夢の中で兄が幸せそうでよかった
    たとえそれが私の夢でも

  • - 2023.07.10 -

    しずく

    雫を抱きしめるように
    君を抱いた
    消える前に飲み干そうと必死だった

    どうしようと
    君は
    あとかたもなく消えた

    この世のものじゃなかった

    少なくとも僕の世界では

    なかった

  • - 2023.07.10 -

    嬉しすぎて、泣いちゃうよ

    「大好きだよ」
    と、言うと
    「うれしすぎてないちゃうよ」
    と、言って
    本当に泣きだす息子

    「こどものときはずっといっしょにいるよ」
    泣きながらも達観したことをいう

    「こんなときはだっこするんだよ」
    おっしゃるとおり抱っこする

    母は、毎日、覚悟を決めているのだよ
    やがて旅立つ君を潔く見送れるよう
    愛の収集に勤しんでいるんだ

    一緒にいてくれてありがとう
    人生の今だけの幸せをかみしめて
    力強くまるごとひかりって感じの
    君が眩しくて

    こちらこそ
    嬉し過ぎて、泣いちゃうよ

  • - 2023.07.10 -

    君という光

    ママが僕より歳を取っているのが嫌だ
    と、泣く息子
    歳の差は縮まらないのだよ
    年下彼氏じゃあるまいし
    嘆かないでおくれ

    いつか
    年老いた私は
    小さくなったとまた泣かれるのだろうか
    皺くちゃの手を引いて散歩に連れ出されるのだろうか

    生まれてから死ぬまでが
    ブラックホールのように
    思い出せなくなっても

    ただ、そこにちょこっと奇跡が瞬く
    君という光

  • - 2023.07.10 -

    霧の中で

    元気なの?と声を掛け
    死んでいたかと湖を見る

    死者は死んでからも
    変化する

    空を映す水面は
    泣いたり笑ったり
    光ったり闇にのみこまれたりと
    忙しい

    鳥居をくぐり
    神さまに会いにいく

    空も海も木も石も水も
    そしてあなたも
    神さまみたいなものだろう

    霧がたちこめる湖は凪いで
    あの世へと続いてる

    泣かないで

    私が幸せであるように
    あなたに祈ろう

    相変わらず図々しいなと
    苦笑いした姿が
    霧の中にあらわれて
    スーッとほどけて

    湖に帰っていく

Photo ノザワヒロミチ