伊東友香

ひとりごと

  • - 2021.05.25 -

    失われたもの

    この非力な両手では難しいという理由で
    見ないふりをしているうちに
    失われたものたちが
    私の喉元までせりあがってきて
    もうすぐ息ができなくなる

    死に際、息を吸うのを見た
    棒のような足も
    固くなった肌も
    見開いた目も

    どうすることも出来なかったというのは
    何もしなかった言い訳

    知らず知らず誰かが誰かを殺している

    屍の上に胡坐をかいて
    笑い転げる気分じゃない

    この非力な両手で
    せめて何を守りたかったんだろう

    気まぐれな快楽に流されながら
    何を守ろうとするんだろう

Photo ノザワヒロミチ