© 2015 itoh yuka
- 2015.06.19 -
朝から雨がしとしとと降り続いている。
待ち合わせの場所へ行かなかったくせに
「あなたの肩に落ちる雨だれになりたかった」
と和歌に綴ったのは平安時代のどの姫君だったかしら。
今日は閉じ込められたふりをして、
ホテルのベッドで過ごすことにした。
雨を言い訳に帰らないと決めたふたりは、
落ちるのを迷ってる2粒の雨だれみたいだ。
あなたは飾られたギターのように静か。
けれどさっきからずっと熱を持った手で
わたしのむき出しの背中を撫でている。
どうしてだろう。
見つめ合ってもいないのに、囁き合ってもいないのに、
こうして体に触れられているだけで、心まで包まれる。
日常じゃない場所で、日常じゃない関係を貪る私とあなたは、
この世に背を向けるように、時代の小さな反逆児のように、
まだまだ足りないと探し続けてる。
この先になにがあるんだろう。
刹那は、雨までも温めてしまうほど熱をおび、
私の手足を縛っては獣のように駆り立てる。
「綺麗だね」
「うん」
「静かだね」
「うん」
「何を見てるの?」
「なにも」
「こっちへおいで」
「うん」
言葉にしたいけどしてしまうことで消えてしまうことがあると、
私はいつ知ったんだろう。
男はいつだってそれを見透かしたように、余計なことは一言も、
いや肝心なことは一言も語らずに、ただ抱きしめて口づけるのに。
「雨、やまないね」
「うん」
ずっと続いてくれたらと願いながら、
終わりはくるだろうと安心してる。
放し飼いにした未来は明日、どんな空を連れくるのか。
© 2015 itoh yuka