伊東友香

ひとりごと

  • - 2026.02.13 -

    つなぐ

    HCUの待ち合い室で
    腹膜炎と全身への感染症で昨晩緊急入院し
    今しがた亡くなられたと
    医師から報告を受ける遺族と鉢合わす

    呆然とした様子の高齢男性
    20代に見えるスーツ姿の女性が
    両手を前で祈るように組みながら
    泣いている
    爪が皮膚に食い込んでないか
    血の方が悔いよりはましか

    なんとか命を繋ぎ止めた母との面会を待ちながら
    もらい泣きをしている場合でもないのに
    涙が滲み出る

    電気のONOFのスイッチみたいに
    突然パチンと切れる命がある
    なんとか灯り続ける命がある

    それは医療がどうとか
    発見が早いとか遅いとか
    祈りとか愛とか神でさえ
    及ばない
    手の届かない諸行なのだ

    面会の時間が来て病室へ向かう
    驚異の精神力で母は笑顔を見せるほどに
    回復した

    風邪を引かないようにね
    と、私に言う
    自転車、気をつけるのよ
    と、心配する
    それどころではない母の
    いつもの母らしい言葉に
    苦笑い

    ハンドクリームを塗りながら
    マッサージをしているふりで
    手をつなぐ
    デパートへ連れ立って歩く
    幼き頃のように
    今はしっかりと
    手をつなぐ

    その温度を
    ぬくもりを
    約束を
    強さを
    命を
    つなぐ

Photo ノザワヒロミチ