伊東友香

歩き出すその前の、わたし

あなたがどうなるのか
わたしは知ってたのかな・・
そうとしか思えないような詩を
あなたと出会うまえから
あなたが元気なときから
たくさん書いていて
なんだかこわくなったよ

いつか同じ場所へ行くから
もう、こわがらなくてもいいんだけどさ



なみだ

なくしたくないものひとつ
届かないものひとつ
守ろうが 愛そうが
風に吹かれる

なくせないものひとつ
抱きしめながらひとり
祈りながら 愛しながら
風に吹かれる

シャボン玉
なみだになる

はじけたなら
僕が
拾おう



私を呼ぶ声がする

思い出の中からあなたが呼ぶ
大丈夫だよとそっと髪を撫でる
私は安らかな死人のように目を閉じる

思い出の中からあなたが切り裂く
行くての限のない孤独を暗示して
かわいそうにと刃をたてる
傷口から閃光のように飛び出す光に
私は怯えながらも目を見開き笑う

浮かびあがるあなたは
他人のようにくるりと背を向け
もう、行くよ
と遠のいてゆく

私は自由になる
過去のような明日に
別れを告げて



思い込みによる愛でもよいのだ

一緒に生きるということは
なんだろう

自分でそう思えればいいのだろうか

この人と生きたい
生きてるような気がする

そう思えれば辛い時の慰めになるのだろう
誰かを自分を守る強さになるのだろう

一緒に生きる
それは
もう自分で決めるしかないのだ

愛・・
それに関しても
もはや、自分の思い込みで強引に
生の道連れにするくらいの気概で



いなくなるのね

満ちて
あと一歩で満月かな
それとも
もう欠けはじめているのかな

上にしろ
下にしろ
生まれる前へ向かうのね

そこが漆黒の闇と知っていても
ふたたび生まれるのだからと物知り顔で

満月は・・
いなくなるのね



愛したい

いのち今あるなら
せめて愛したい

愛したから
いいやと
あなたが死んだあと
思えるように

愛されたから
いいやと
あなたが死ぬとき
思えるように

最後の祈りみたいに
ただ、愛したい



ふらんふらん

なんてふらふらした人だろうと
父親を見て思っていたけれど
私も負けず劣らず
ふらんふらんしている

散歩が好きなんだ
よく父親と歩いた

どこへ?
と聞くと
べつに・・
と返ってきて
まあ、それもいいか
と思った

どこかわからないどこかへ
行きたくて仕方がない

右手に父親がいない
いま、
いないけれど
何かが私を地上に手繰り寄せる

中途半端に浮いた足がおぼつかなくて
ふらんふらん
してしまう



尊いひかり

命という儚いひかり
ゆらめいて
消えそうで
不安で
恐くて
手のひらで包んで
胸のそばで守ろうと
必死になる

あなたの命
たとえ
この胸が焼け焦がれ
ただれようとも

守りたい

失えるはずもない
ただひとつ私のために
掛け替えのない

尊いひかり



わからなかった

愛されなかったのは
なぜか
わからなかった

愛されたのはなぜか
わからなかった

あの人の子を
もし産んでいたら
あの人は腕にその子を抱き
壊れないようにとそっと息をひそめて
愛しくてたまらずに微笑んだだろうか

愛されなかったのは
なぜか
わからなかった

愛されていたとしても
わからなかった

Photo ノザワヒロミチ