伊東友香

散文

  • - 2015.06.06 -

    パラドックス

    「追うと逃げられる、逃げると追われる。」
    この恋愛の図式は思ったより真理らしい。

    私は相手から愛されていないと相手を好きではいられない。
    なので片想いをしたことがない。
    自分に恋焦がれていない男には興味がないから、
    好きになることもない。
    なので恋を成就させるために男を追い回した経験はない。
    私の恋は大体が一目会った瞬間に始まる。
    この人とはこの先何かありそう・・
    そんなインスピレーションを感じて、
    お互いに歩み寄って行くことが多い。

    なので、最初のうちは物凄く盛り上がる。
    毎日のようにデートと電話とメールを繰り返し、
    少し離れるだけでもどかしいような気持ちになる。
    出会えたことを奇跡のように感じ、神様に感謝する。
    まさに世界は薔薇色・・
    でも、そんな時期はそんなに長くは続かない。
    人間は慣れる動物なので、毎日会っていれば恋も日常になり、
    一緒にいるのが当たり前になり、どうしたって新鮮さは薄れる。
    そんな時、私はいつも相手の気持ちが不安になり、私をどの程度必要としているのか、
    確かめたくなってしまう。
    もし、冷めているなら、別れよう・・
    そんな風にすぐ極論へ向かってしまうのだ。
    付き合いが長くなり、恋の情熱が落ち着いてきた時、
    男の態度は顕著に変わるような気がする。
    彼女の期間が長くなれば、相手にとってその女の人はもうスペシャルじゃない。
    スペシャルではなくて日常のオプションになってしまう。
    いつでも会える存在、自由に出来る存在、すなわち優先させる必要がないというわけ。
    最初は、暇さえあれば何よりも先に私と会いたがっていた男が、
    仕事だの、友達だのを優先させて、私に待っていてと言う。
    は?冗談じゃないわよ。冷めたなら別れましょう!
    こういった結果になるわけ。
    そして大体の男は去るものを追う習性があるので、
    「俺が悪かった。機嫌を直して。大切に思っているんだから。」と言う。
    まさに、「追うと逃げられる、逃げると追われる」という図式に当てはまる。

    なんだか同じことの繰り返しだ。
    相手が違うからもちろん多種多様なわけだけれど、
    大元のところは大差ない気がしてしまう。
    なので、今の男を大切にし続けようなどと思っている今日この頃。

    若い頃は、恋はやっぱり出会ってからしばらくの間の、
    上昇気流に乗りながらどっぷり溺れている時が最高に楽しいと思っていた。
    けれど、それを味わうにはまた新たな恋をしなくてはならず、
    恋の寿命を考えると死ぬまでにいったい何度恋をしなければいけないのだろうかと
    途方に暮れてしまう。そもそもそこまで惚れられる相手が何人も現れるとも思えない。
    本物の人と人としての付き合いは、恋の熱が少し冷め、
    柔らかくお互いを温め合えるようになってから始まるのかもしれない。
    ゆっくりと少しずつ時を共有して行くことで、絆が深まり、
    いつしか愛が芽生えて行くのかもしれない。

    まあ、私も年です。
    恋の情熱に身を焦がすのではなく、
    思いやり温めあえるような関係を築いてもいい頃かも。
    先のことなんてわからない。
    その分、今胸の中に芽生えた優しい気持ちを大切にしながら。

Photo ノザワヒロミチ